田の神

 1.田の神様について

田の神様とは  

  田の神様(タノカンサア)は、農耕の神として農民の間で信仰を集めてきました。日本では古くから米作り農業を基盤として生活を営んできましたので、全国的に田の神信仰が見られます。ただ、田の神石像については、鹿児島藩内(鹿児島県及び宮崎県の諸県地方)のみの文化であると言われています。現在でも、田んぼの見える高台や田んぼの畦にたたずむ田の神石像を見かけます。

田の神様への祈り

  田の神石像は、五穀豊穣を祈り、その種まきの神として作成されました。時代が経つにつれ、農民の神として大衆化し、現在見られるような親しみやすい姿になりました。「タノカンサア」という呼び方からも親しみが感じられます。

田の神石像の分布

  現存する最古の田の神石像は、平成16年に発見された鹿児島県霧島市横川町上ノの紫尾田の田の神で、正保元年(1644)の銘を持つ衣冠束帯の神職型の石像です。それ以前は、鹿児島県薩摩郡さつま町の宝永2年(1705)銘の紫尾の田の神(地蔵型)が最古とされていましたが、実に61年も年代が古くなったことになります(正保元年銘に疑問を持つ研究者もいるようですが)。ちなみに、宮崎県内で最古のものは享保5年(1720)銘を持つ小林市真方の新田場の神職(神官)型の田の神石像です。仏像型の田の神石像は薩摩半島の北側から発生しその分布を広げたとされ、神職型の田の神石像は諸県地方から発生しその分布を広げたとされ、のちに混在していきます。

田の神の型・変遷について

  石像の型の呼称は、研究者によって違っていたり、宮崎と鹿児島で違っていたりと、統一されていないのが現状のようです。

・仏像型系統の変遷:仏像型→僧型→旅僧型

・神像型系統の変遷:神像型→神職型→田の神舞型(農民型)

  系統の変遷を見ますと、「仏様から人間へ」又は「神様から人間へ」と徐々に人の姿に近づき、親しみのある庶民的な石像へと変遷をとげたと言えます。そのほかに、道祖神的並立型、女人像型、陽石型、自然石等があるようです。

「オットイタノカンサア」について

  「オットイタノカンサア」とは盗んだ田の神様という意味で、なぜ盗むのか(実際は借りる)については、理由は様々のようです。
  田の神石像が作られ始めた経緯については既に述べましたが、新しく水田が開発された時や、新しくできた村で田の神のない村では田の神のオットイを計画するようです。これは、村の者全体の意志として決定され、のちに返しに行く時に持参する謝礼の方法等まで、詳しく討議し、決定した上で若い者がオットイに派遣されます。それが分かっているから盗まれた村も詮索をしないし(置手紙等がある)、盗んだ村も約束を守る、そんな風習があったようです。また、他の地区の村人は皆仲が良く、よく働いて作物もよくできる、そういった村があると聞いた時に、それはその村の「タノカンサア」が良いからだということで、その「タノカンサア」の恩恵にあやかるために「オットイ」を計画するようです。
  しかし、今述べたようなルールは古い時代はよく守られたようですが、時代が進むにつれてそのルールは守られなくなり、帰ってこない田の神になり、ついにはオットラレないようにセメント付けになったものも多いようです。

田の神舞(タノカンメ、タンカンメ)について

  田の神舞は南九州の各地で見られ、神楽の中でも最も親しまれる舞の一つでした。現在では、見る機会も少なくなりました。春と秋の年2回、田の神祭りが行われ、その日を田の神講(タノカンコ)の日としてお祭りを行ったようです。その日は、田の神に化粧をし、当番の家に集って田の神祭りを行い、その中で、田の神舞が踊られたそうです。

 2.三股町の田の神さあ

  都城や三股地域で田の神石像が作られ始めたのは、災害等がきっかけのようです(『三股町史 上巻』)。特に、享保期(1716~1736年)には霧島の噴火をはじめとして、自然災害(台風・長雨・日照り等)も発生し、享保12~13年には飢饉も発生しています。鹿児島藩全体で虫追儀礼や雨乞いが行われましたが、田の神石像の作成もこの時期に集中しています。本町の田の神に年代の入ったものは2体(文政期・大正期)のみで、享保期のものは確認されていませんが、江戸時代における三股地域は、鹿児島本藩の直轄領と都城島津家領で構成されていましたので、その影響下で田の神石像が作成されたことは間違いないでしょう。以下に、本町の田の神舞型と神職型の石像をいくつか紹介します。

・三股の田の神舞型の石像

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①長原の田の神(長田地区)

崎田.JPG (66 KB)
②崎田の田の神(田上地区)

堂領池.JPG (68 KB)
③上小石の田の神(堂領池)

・三股の神像型の石像

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①天神の田の神(塚原)

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②原田の田の神(上米地区)

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③野中の田の神(蓼池地区)

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